【公演レポート】西村翔太郎&今田篤ピアノデュオコンサート「幻想と情熱のシューマン」
9月13日(土)、東京藝術大学千住キャンパスにて、西村翔太郎&今田篤ピアノデュオコンサート「幻想と情熱のシューマン」が開催されました。
本公演ではドイツ・ロマン派を代表する作曲家、ロベルト・シューマンをテーマに、その優れた数多くのピアノ作品の中から、『幻想小曲集』Op.12 (1837)、『クライスレリアーナ ピアノのための幻想曲集』Op.16 (1838)、『2台ピアノのためのカノン形式による6つの練習曲』Op.56 (1845, C.ドビュッシー編曲 1891) が演奏されました。

一曲目は、西村翔太郎さんの演奏による『幻想小曲集 Phantasiestüke 』Op.12 (1937) で、第1曲《夕べにDes Abends 》の静かで柔らかい響きの幻想的な作品で演奏会は始まりました。全8曲からなるこの小曲集は、すべての曲に文学的な標題が付けられており、文学に対する造形も深く、音楽評論などの執筆も行っていたシューマンの言葉で表現することへのこだわりが感じられます。また、第2曲《飛翔Aufschwung 》や、第5曲《夜にIn der Nacht 》など打って変わって激しい曲もあり、全8楽章を通じて、シューマンらしい「静」と「動」の対比、二面性の提示がなされています。西村さんの緩急ある演奏が、静穏な部分と活発な部分との対比を成し、幻想的な曲全体をより色彩豊かなものしていて、シューマンの美しい音の運びをとてもよく感じられました。

2曲目の前に、演奏者の二人から挨拶や楽曲の説明がありました。今田さんが「シューマンの一世代前の作曲家、例えばベートーヴェンは、詩や哲学をテーマに、人類全体へ向けたメッセージのような壮大な作品の創作を試みていたが、シューマンはどちらかと言えば、そのような大きなテーマよりも、自身の思いや感情を個人へ、それはクララかもしれないし、演奏を聴くあなたかもしれない、誰か一人へ伝えるということを非常に大切にしているように思える」と話していたことがとても印象的で、シューマンのロマン派らしい一面を非常によく表現している言葉だと感じました。

二曲目は、今田篤さんの演奏による『クライスレリアーナ ピアノのための幻想曲集 Kreisleriana-Phantasien für das Pianoforte 』Op.16 (1838) でした。こちらも全8曲からなる小曲集で、速いテンポの激しく情熱的な曲と、ゆったりとした穏やかで叙情的な曲が交互に演奏されます。この曲の題を冠するクライスレリアーナとは、E.T.A.ホフマンの小説に登場する「楽長クライスラー」から取ったものであり、叶わぬ恋を描いたこの小説にシューマン自身の恋愛を重ねていたと言われています。細かく速い動きのパッセージがある展開の早い情熱的な曲が目立ちますが、それ以上に、ゆったりとした曲のシューマンの情景や心情を語るような詩的な側面が感じられる、繊細でラブレターのような素敵な演奏でした。

三曲目、最後の曲はC.ドビュッシー編曲による『2台ピアノのためのカノン形式による6つの練習曲 Six Etudes en forme de Canon à 2 Pianos 4 mains 』Op.56 (1845) でした。この曲はもともとペダルピアノという足鍵盤付きのピアノのために書かれたもので、1台のペダルピアノを用いて一人で演奏する作品でしたが、この楽器がほとんど普及していない稀な楽器のため、ピアノでも演奏できるように近代のフランスの作曲家、クロード・ドビュッシーが2台ピアノ用に編曲したものです。題名にあるカノンとは、一つの旋律を異なるタイミングで輪唱のように重ねていく作曲技法や、それが用いられた楽曲のことを指します。2台のピアノの互いに語らうような旋律が複雑に絡み合いつつも美しい調和を保ち、豊かな音色や温かい雰囲気が感じられ、演奏会の最後に相応しい優美な楽曲でした。

時に優しく幻想的に、時に激しく情熱的に、表情豊かなシューマンのピアニズムを堪能できる素晴らしい演奏会でした。
文責:寺園 龍太郎
