【公演レポート】文化の日 音楽祭「アダチ・藝大・LIVE!」2025
2025年11月3日に東京藝術大学千住キャンパスにて文化の日 音楽祭 「アダチ・藝大・LIVE!」2025が開催されました。本公演は今年で4回目の公演となり、今年は200名を超える多くの方々が来場しました。
本演奏会はピアノ独奏、弦楽四重奏、邦楽合奏、トロンボーン四重奏によるリレー形式となっており、それぞれの織りなす音楽の魅力が詰め込まれた豊かなプログラム構成でした。また本学在学生が作曲したADACHIの音列による新曲も4曲披露されました。千住キャンパスが位置する足立をローマ字で読むとADACHIとなりますが、これをドイツ音名で読むとAがラ、Dがレ、Cがド、Hがシとなり「ラレラドシ」の音の並びが浮かび上がってきます。これに従って、演奏された新曲はいずれもこの「ラレラドシ」の音列を用いて作曲されています。
第1部は本大学の博士後期課程に在籍している佐伯日菜子さんのピアノ独奏から始まりました。プログラムは次の通りです。
・ADACHIの音列による「小さなジグ」 長嶋文音
・民族舞踊組曲 ザビン・ドラゴイ
・ピアノ組曲第2番 ジョルジェ・エネスク
一曲目は本大学学部生の長嶋文音さんによる《ADCHI音列による「小さなジグ」》です。ジグというのはイギリスで発展したテンポの速い舞曲のことです。本楽曲は足を踏み鳴らすような力強いリズムと中間部の歌うようなメロディーが印象的で、本公演の最高のスタートを飾りました。

またピアニストの佐伯さんは大学院でルーマニアの音楽家ジョルジェ・エネスクについて研究しており、今回のプログラムもエネスクをはじめとするルーマニアの作曲家による楽曲で構成されています。佐伯さんによるとルーマニアには様々な行事や宴会の席など事あるごとに大人数での踊りを楽しむという文化があるとのこと。その言葉の通り、佐伯さんの演奏は民族的な音階や抒情的な旋律のなかにルーマニアの人々の営みや息遣いが感じられる、そんな温かみに溢れた演奏でした。今回の佐伯さんの演奏で来場された方にもきっとルーマニアの音楽の魅力が存分に伝わったことでしょう!

第1部の後半はOOQuartetのみなさんによる弦楽四重奏でした。メンバーは加藤綾子さん(ヴァイオリン)、北澤華蓮さん(ヴァイオリン)、中村詩子さん(ヴィオラ)、永田歌歩さん(チェロ)の4名でプログラムは次の通りです。
・Adachi Remnants 横澤暁生
・弦楽四重奏曲 第1楽章 M.ラヴェル
・弦楽四重奏曲 第1楽章 C.ドビュッシー
・弦楽四重奏曲 第2番より抜粋 野村誠
一曲目は本大学学部生の横澤暁生さんによる《Adachi Remnants》です。全体的に穏やかでありながらどこか物悲しげなモチーフが次々と展開されていく楽曲で、最後にADACHIの音列で構成された和音で静かに曲が終わるところがとても印象的でした。続いてM.ラヴェルとC.ドビュッシーによる弦楽四重奏曲が演奏されました。どちらも近代を代表するフランスの作曲家でどちらも印象派特有の色彩的で豊かなハーモニーを存分に堪能することができました。最後に演奏されたのは足立区にもゆかりのある日本人作曲家の野村誠による弦楽四重奏曲第2番《ズーラシア》です。本楽曲は動物の鳴き声のようなグリッサンドから始まり、その後もさまざまなキャラクターの音楽が次々に登場します。動物たち賑やかな暮らしを感じさせる華やかな演奏で第1部の最後を締めくくりました。どれも弦楽器の美しい掛け合いを存分に味わうことのできる素敵な演奏でした!

第2部は邦楽合奏から始まりました。メンバーは山下靖喬さん(津軽三味線)、山中裕史さん(津軽三味線・太鼓)、長谷川将山さん(尺八)、井坂斗絲史さん(舞踊)の4名でプログラムは次の通りです。
・序 山下靖喬
・駆 山下靖喬
・民謡メドレー
・鶴の巣籠 初代中尾都山
・津軽じょんがら節(青森県民謡)
・七言 中谷亮介
・響炎 山下靖喬
真っ黒な7ホールを切り裂くような三味線の音と気迫あふれる掛け声を皮切りに、疾走感のある楽器同士の掛け合いと勇ましい剣舞から第2部が始まり、冒頭から一気に心を鷲掴みにされました。その後の民謡メドレーでは日本全国津々浦々の民謡が演奏されみんなで手拍子によって盛り上がる和やかな場面もありました。民謡メドレーが終わると、尺八独奏による《鶴の巣籠》という楽曲と二棹の三味線による《津軽じょんがら節》が披露されました。《鶴の巣籠》は長谷川さんの繊細な息遣いが非常に印象的な楽曲で、尺八の奥ゆかしい魅力に溢れた演奏でした。《津軽じょんがら節》は目にも止まらぬ速さの指さばきと、覇気のこもった掛け声の応酬が繰り広げられる技巧的な楽曲で、会場にいた全員が津軽三味線の超絶技巧を息を呑んで聴き入っていました。

また本学学部生の中谷亮介(筆者)による《七言》も邦楽合奏の皆様に演奏していただきました。7拍子という珍しい拍子の楽曲で、曲中では三味線や尺八によるアドリブや舞もつけていただき素晴らしい演奏に仕上げてくださいました。

最後には三味線の山下靖喬さんによる《響炎》というオリジナル楽曲が披露されました。扇子の先端にとりつけてある炎のように鮮やかな朱色の布をはためかせながら舞う舞が印象的な楽曲で、最後まで一糸乱れぬ圧倒的な演奏に大きな拍手が巻き起こりました。演奏はさることながら曲間のトークからはみなさんの気さくなお人柄も垣間見える素敵な演奏会となりました。
最後は横綱トロンボーンカルテットの皆さんによるトロンボーン四重奏でした。メンバーは上田愛香さん、青柳賢さん、藤原佳鈴さん、大関一成さんの4名でプログラムは次の通りです。

・組曲『ホルベアの時代』より前奏曲 E.グリーグ(編曲:今村岳志)
・亡き王女のためのパヴァーヌ M.ラヴェル(編曲:村田陽一)
・トロンボーン四重奏のための組曲 A.カース(編曲:小田桐寛之)
・Traces:ADACHI 永野太紀
・Transonance M.ギルクス
トロンボーンはオーケストラでは重要な中低音を担う金管楽器ですが、トロンボーンのみで演奏されることはあまり多くはなく、今回のトロンボーンカルテットも組み合わせとしては非常に珍しい編成で、トロンボーンの良さを味わうにはまたとない絶好の機会でした。
前半に演奏された組曲『ホルベアの時代』より《前奏曲》、《亡き王女のためのパヴァーヌ》、《トロンボーン四重奏のための組曲》は元々違う楽器編成の楽曲です。それぞれトロンボーン四重奏用にアレンジされており、トロンボーンならではの温かみのある音色によって原曲とはまた違った良さを味わえる演奏でした。そしてその後に本大学学部生の永野太紀さんによる《Traces:ADACHI》も初演されました。永野太紀さんもご自身でトロンボーンを演奏することからトロンボーンのポテンシャルが最大限まで引き出された技巧的かつ美しい楽曲でした。最後に演奏されたのはトロンボーン四重奏のために作曲された《Transonance》という楽曲です。この楽曲はジャズトロンボーンの名手であるM.ギルクスによって作曲された楽曲で、前衛的なハーモニーを含みながらも美しく展開されていく様子を4名の息ぴったりの演奏で鮮やかに表現し、本公演の最後を見事に締めくくりました。
曲間にはトロンボーンという楽器を紹介するコーナーなどもあり、トロンボーンの様々な魅力を体験できる素晴らしい演奏でした。
どの公演もそれぞれの持ち味を生かした素晴らしい公演で、古今東西の様々な音楽を存分に楽しむことができるこれ以上ない「文化の日」となりました。
文責 中谷亮介
