【公演レポート】弦楽四重奏vol.2「旅する音楽」

12月20日(土)足立区立郷土博物館

2025年12月20日(土)足立区立博物館にて、東京藝術大学アウトリーチ・コンサート「旅する音楽」が開催されました。

演奏は、加藤綾子さん(ヴァイオリン)、北澤華蓮さん(ヴァイオリン)、中村詩子さん(ヴィオラ)、永田歌歩さん(チェロ)からなる弦楽四重奏団「OOQuartet」でした。この団体名は読み方や由来を「それぞれについて考えて欲しい」という意図があり、付けられたそうです。実は、筆者の私が考えた読み方をここに記そうと思ったのですが、少し恥ずかしくなってきたので心うちに留めておくことにします。皆さんもぜひ考えてみてくださいね。

それはさておき、今回の公演ではおよそ100名近い方が来場されました。開催場所はコンサート会場としては珍しく足立区立郷土博物館でした。この日が無料開館日ということもあり、来場者は開演前から歴史的な資料や様々な美術作品が鑑賞可能で、たった1日で幅広い芸術に触れることができました。

はじめに演奏されたのはW.Aモーツァルト作曲《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》第一楽章でした。これは言わずと知れたモーツァルトの名曲ですが、初演がいつなのか、そもそも誰の依頼で、何の目的で書かれたのかが、分かっていません。分かっているのは1787年8月に完成したという点のみです。モーツァルトは、この公演のタイトルにもあるとおり生涯のほとんどを旅して、音楽を各地に届けていった作曲家です。さらにこの作品ができた年の5月には、子供の頃からの演奏旅行を共にした父親が亡くなっています。このような背景を持つ作品ですが、そういったことを全く感じさせない軽快で明るい第一主題と共に演奏会の始まりを華々しく告げてくれました。

モーツァルト アイネ・クライネ・ナハトムジーク

 

次に演奏されたのはC.ドビュッシー作曲《弦楽四重奏曲op.10》第一楽章、第三楽章でした。時代は《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》が作曲された時からおよそ100年が経ちました。ドビュッシーは印象派時代を代表する作曲家であると言われるように、先ほどの曲とはうって変わって神秘的で不思議な音が鳴り響きました。これは調性が確立されるより前からヨーロッパの教会で使用されていた教会旋法と呼ばれるものが使われているからです。聴衆の方々が不思議な旋律にのめり込む様に聴き入っていた様子が印象的でした。そして低音が響く会場の特徴がプラスに働き、よりドビュッシーの紡いだ音に没入することができました。

ドビュッシー 弦楽四重奏曲

 

続いて演奏されたのはM.ラヴェル作曲《弦楽四重奏曲M.35》第一楽章、第二楽章でした。先ほどのドビュッシーと同じく、ラヴェルも印象派の時代を代表する作曲家です。この作品で特に印象的なのは第二楽章です。冒頭のテーマが、弦を指で弾いて音を出す「ピッチカート」で成り立っています。

この曲が書かれた1903年当時、まだジャズは確立されておらず、ラヴェル自身後にジャズと呼ばれる音楽とまだ出会っていませんでしたが、この曲全体を通してみられる複雑な和声やリズムは、後にラヴェルが傾倒するジャズの響きや、現代ジャズ・ハーモニーをも予感させます。この曲を初めて聴いた方や、あまり弦楽器に馴染みのない方にとって、興味深い作品となったのではないでしょうか。

ラヴェル 弦楽四重奏

 

最後に演奏されたのは野村誠さん作曲《弦楽四重奏曲 第2番 ズーラシア》でした。この曲は楽章ごとに

「フンボルトペンギン」

「テーマなんちゃって変奏」

「エミュー」

「セスジキノボリカンガルー」

など、動物の名前が付けられ、それぞれの動物が見事に表現されていました。特に最初のフンボルトペンギンでは不協和音とも取れるグリッサンドから始まりましたが、なぜか聞き心地がよく、来場者からは「本当にフンボルトペンギンがいるかのようでした」との感想が寄せられました。他の楽章でも弦楽器ならではの奏法により動物の鳴き声を模した音が聞こえるなど、思わず演奏中の演奏者が笑みをこぼす、ユーモアの溢れる曲でした。

野村誠 ズーラシア

 

クリスマスが近かったということもあり、アンコールとしてチャイコフスキー作曲《くるみ割り人形》「トレパーク」が演奏され、コンサートを締めくくりました。

今回は、モーツァルトから野村誠さんの作品までおよそ200年の時を旅した演奏会となりました。またその時代の変遷のなかで発展してきた奏法、ジャンルを一挙に聴くことができる贅沢な時間で、筆者にとっても新鮮な学びがあり、弦楽四重奏の面白さを感じることのできる演奏会でした。

文責:中野湧斗