「ロシア・ピアニズム ー優美なる響きー」を開催しました。

1月11日(土)東京藝術大学 千住キャンパス スタジオA

ピアニストの長瀬賢弘さんによるロシアのピアノ作品のコンサートを開催しました。

皆さんはロシアのピアノ音楽と聞いて何を思い浮かべますか。壮大なロシアの大地を思い起こさせる大作でしょうか、はたまたロマンチックな小曲でしょうか。ロシアのピアノ音楽は、西洋のピアノ作品とは異なる道を辿ってきました。チャイコフスキー、ラフマニノフ、スクリャービン、プロコフィエフといったロシアの作曲家の大家は、土着の民謡や教会音楽などのロシア文化やそして気候と、西洋音楽を結びつけて傑作を遺しました。これらはロシアの音楽文化の発展に大きく貢献しました。

長瀬さんは、東京藝術大学附属高等学校卒業、東京藝術大学大学院修了後にモスクワ音楽院にて5年間の留学を経て、東京藝術大学で博士号を取得されました。冒頭のMCで、ロシアに訪れたことがあるかを来場者に尋ねて長瀬さんはこう話しました。「ロシアに旅行に行くならいつの季節がいいのか聞かれることがありますが、僕は断然“冬”をお勧めします。冬に楽しいイベントが多いこと、ロシアの冬の寒さを体験してほしいことから」とのことです。意外でしたが、冬こそロシアらしさを体験できるということなのでしょうね。

コンサートは、チャイコフスキー「四季」より一月“炉端で”、二月“謝肉祭”から始まりました。一曲目は、寒い冬に家の暖炉の火が消えかかっている様子、そして二曲目の謝肉祭は、正確には“マースレニツァ”というお祭り(直訳するとバター祭り)を指すそうです。このお祭りでクレープに似たブリヌイというお菓子を焼いて食べるそうで、人々が食べる様子が目に浮かぶような楽しい軽快な曲です。

続いて、ラフマニノフ「鐘」です。ロシアの鐘は、人々の生活に深く根付いています。鐘の音は人々にお昼を知らせたり、夕方には仕事の終わりの合図になったり、農村では鐘を中心に生活が回っていると言っても過言ではないそうです。大小様々な音色の鐘を職人が1日に何度も鳴らしてきたそうで、日本のお寺の鐘とは異なりますね。有名な作品ですが、作品の背景を理解するとピアノの響きがまた奥深く感じられます。

長瀬さんはお話が上手で、MCで作品の背景や長瀬さんの留学経験、そしてロシアの文化などを穏やかにお話してくださるので、様々な視点から作品を感じ取ることができます。来場者の中にはお子様もいらっしゃいましたが、そのおかげで演奏を楽しんでいただけたようでした。

次の作品は、スクリャービン「2つの詩曲」です。スクリャービンは、ラフマニノフとモスクワ音楽院で同学年でしたが、ラフマニノフとはまた異なる個性を発揮しました。作品は前期、中期、後期と分けられ、「2つの詩曲」は前期にあたり、ロマンチックな音色ながら独自の和声を用い細やかに音を紡いでいます。

コンサートの最後は、プロコフィエフの作品です。一つ目は、「ロミオとジュリエット」“モンタギュー家とキャピュレット家”、二つ目は「戦争ソナタ」です。長瀬さんはプロコフィエフの演奏会を続けてきています。チャイコフスキー、ラフマニノフ、スクリャービン、そして最後のプロコフィエフまで、長瀬さんとロシア音楽の知の旅に行ったようなコンサートになりました。