[公演レポート]弦楽四重奏vol.1 「ギャラク de カルテット」
6⽉13⽇(⾦)、ギャラクシティ⻄新井⽂化ホールにて、東京藝術⼤学アウトリーチ・コンサート「ギャラク de カルテット」が開催されました。
演奏は加藤綾⼦さん(ヴァイオリン)、北澤華連さん(ヴァイオリン)、中村詩⼦さん (ヴィオラ)、北嶋愛季さん(チェロ)からなる弦楽四重奏団「OOQuartet」でした。この団体名は読み方や由来を「それぞれに考えてほしい」という意図があり、付けられたそうです。400名を超える方が来場され、アンケートの回答ではお⼦様を中⼼に「弦楽四重奏を初めて聴く」という⽅も多くいらっしゃいました。
はじめに演奏されたのはサリエリ《4つの嬉遊曲》でした。弦楽四重奏の基本となる書法が確⽴されていく古典派という時代に書かれている曲であり、それぞれの楽器の掛け合いや役割が⾮常にわかりやすく聴こえてきました。4楽章ともに速度は速く、弦楽四重奏という編成ならではの俊敏さが生かされた楽想により、軽やかにその世界に誘われるような演奏会の始まりとなりました。
続いて演奏されたのは、ドビュッシーの《弦楽四重奏曲 作品10》でした。時代は⼀気に⾶び、近代へと移ります。ドビュッシーの特徴と言える、長調/短調が確立される前からヨーロッパの教会音楽で使用されていた音階である教会旋法からなる旋律が冒頭から4⼈の奏者によって印象づけられます。サリエリの古典的な和音構成に比べて、より複雑な和音の展開が見られ、軽やかさから⼀転して、弦楽器が持つ特有の憂いのようなものを感じることができた楽曲でした。
次に演奏されたのはラヴェルの《弦楽四重奏曲》です。時代は先ほどのドビュッシーと 同じく近代に分類されますが、こちらの曲では、「現代」への接近が⾊濃く感じられます。特に第⼆楽章では、冒頭のテーマ が、弦を指で弾いて音を出す奏法の「ピッチカート」のみで構成されています。4人の奏者全員が、ピッチカートで演奏するという場面は珍しく、弦楽器にあまり親しみのない⽅は、弦楽器の⾳⾊の幅の広さに驚いたのではないでしょうか。
最後に演奏されたのは、同時代の作曲家、伊佐治直の弦楽四重奏曲《縄》です。まず、 ヴァイオリン2丁ヴィオラ、チェロがそれぞれ向き合う形で配置されるという異様な配置に⽬を引かれます。曲⾃体は、いわゆる現代⾳楽的な語法で書かれているものの⾮常にわかりやすいコンセプトでまとめられています。例えば、対になっている2つの楽器で、 ある音からある音へ滑らかに移行する奏法であるグリッサンドを同時に⾏う際も、⼀⽅は上⾏、もう⼀⽅は下降というように対照的に⾳が配置されています。終盤に差し掛かるにつれて、ニ⼈のヴァイオリン奏者がヴィオラ、チェロの背後に忍び寄るように動き、最終的にはヴィオラ、チェロの⾳を背後のヴァイオリン奏者が操っているかのような状態で演奏が終わります。まるでヴァイオリンに操られるようにして、ヴィオラ、チェロが⼸にかける圧⼒を強め、音高がほとんど聞き取れない軋んだ音を出している様⼦はシュールで、どこか可笑しみを感じてしまうような場⾯でした。
各曲の間には、奏者による短い解説もあり、初めて弦楽四重奏に触れる⼈でもそれぞれの楽器の名前や役割を知った上で聴くことができるようになっていました。また、最後の伊佐治さんの曲の前には作曲者本⼈が登壇され曲に込めた思いをお話しされました。このようなクラッシックのコンサートで、作曲者が登壇して話すということは、稀なことで、驚かれた方も多かったのではないでしょうか。
今回の演奏会は幅広い時代の楽曲を同じ編成を通して聴くことができるものでした。同じ編成でもここまで多種多様な⾳⾊で、全く違う世界を作ることができるということは、筆者にとっても改めて新鮮な⾯⽩さとして感じることができました。
⽂責:⾼橋侑⼤