大人のための邦楽ワークショップ「筝はじめ」が開催されました

8月31日(土)東京藝術大学 千住キャンパス スタジオA

8月31日、東京藝術大学北千住キャンパスにて「大人のための邦楽ワークショップ『筝はじめ』」が開催されました。東京藝術大学邦楽科生田流の石本かおり非常勤講師と大学院生講師によるワークショップ&コンサートです。一時は、台風10号で開催が危ぶまれたものの、晴天に恵まれ、約30名の方々に参加いただきました。

和やかな雰囲気で、約3時間のワークショップが始まりました。まず、演奏する曲は《さくら さくら》です。初心者の方でも分かりやすいように、石本先生が音の読み方から筝を指導します。

参加者は、真剣な表情でそれを見ながら練習を重ねていきました。初めて使う「箏爪」や弦を押す感覚に、慣れない様子もありながら、楽しそうに楽器に触れていました。

筝の奏法の一つである「押し手」は、左手で強く弦を押して音程を上げる技法です。「こんなに押して大丈夫?」と不安になる方もいるほど、腕の力を必要とする演奏方法ですが、講師が丁寧に参加者のサポートする様子が見られました。集団のワークショップでありながら、細やかなアドバイスを聞くことができることが、今回のワークショップの大きな魅力だと感じます。

続いての練習曲は美空ひばりさんの《川の流れのように》です。有名なサビのメロディを箏のアレンジで演奏します。《さくら さくら》より右手の親指の動きが難しくなっており、演奏のハードルも上がります。参加者は運指に苦戦しながらも、繰り返し演奏するうちに、全体の音の粒も揃っていきました。先生の掛け声に合わせて、会場に軽やかな音が広がります。短時間ながら、演奏が上達していく様子を目の当たりにして驚きます。

ワークショップの最後、3時間で習得した2曲を、参加者全員で演奏しました。大学院生講師も伴奏に加わり、参加者が奏でる旋律に色を添えました。

ワークショップに引き続き開催されたのは、講師らによるコンサートです。1曲目は八橋検校の《六段の調べ》です。箏と三絃によって演奏されるこの曲は、江戸時代初期に作られた箏の代表曲です。六つの段から成り、冒頭部分を主題とし、リズム、音色、速度の変化によって展開します。

続いての曲は、吉沢検校の《千鳥の曲》です。《六段の調べ》と共に箏の代表作品としても知られるこの曲は、前唄を「古今集」、後唄を「金葉集」の千鳥の和歌からとっています。箏のカケ爪や割り爪といった技法を使用して、浜辺で遊ぶ千鳥の様子を軽やかに表現しました。

3曲目は、宮城道雄の《瀬音》です。宮城が制作し、その後の現代邦楽に大きな影響をもたらした十七絃箏が使用されます。通常より大きなこの箏は、従来の筝では演奏できなかった低音域の音を奏でます。

最後の曲は、冷水乃栄流の《桜フラグメンツ》です。東京藝術大学修士課程作曲専攻を修了し、現代作曲家として活躍する冷水は、邦楽器を用いた現代音楽の作曲を幅広く手がけています。この《桜フラグメンツ》は3つの筝を用い、桜の花びらが水に流れていく様子や、ひっそりと咲いた桜が舞い落ちる様子、咲き満ちた桜が零れ落ちていく様子を、鮮やかに表現します。

古典的作品から現代邦楽に至るまで、多種多様な箏曲の可能性を提示したコンサートは、盛況のうちに幕を閉じました。

ワークショップで実際に演奏を体験した後に、コンサートを鑑賞することで、少し遠い存在に感じていた箏という楽器が、参加者にとって親しみをもてるようになったのではないでしょうか。

報告者:小林知夏(東京藝術大学音楽学部 音楽環境創造科3年)

筝には、今回のワークショップのために用意した音程表が掲載されていました